国際電波科学連合およびアジア・太平洋電波科学会議の任務と課題


小 林 一 哉

中央大学理工学部 教授

日本学術会議 第21URSI分科会委員長

2010年アジア・太平洋電波科学会議 大会委員長・実行委員会委員長


「国際電波科学連合」(International Union of Radio ScienceURSIhttp://www.ursi.org)は,電波科学の国際的な連絡とその発展を推進することを目的とした国際学術団体で,国際科学会議(International Council for ScienceICSUhttp://www.icsu.org)に加入する30Scientific Union(分野別国際学術団体)のひとつである.URSIは本部をベルギー・ゲント市に置いている.URSIは加入国のURSI国内委員会によって構成されており,現在,日本を含む以下の42の国・地域がURSIに加入している.

アルゼンチン,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,ブラジル,ブルガリア,カナダ,チリ,中国,台湾,チェコ,デンマーク,エジプト,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシア,ハンガリー,インド,アイルランド,イスラエル,イタリア,日本,オランダ,ニュージーランド,ナイジェリア,ノルウェー,ペルー,ポーランド,ポルトガル,ロシア,サウジアラビア,スロバキア,南アフリカ,韓国,スペイン,スウェーデン,スイス,トルコ,英国,ウクライナ,米国

また,URSIの傘下には,電波科学に関する全ての分野をカバーする10の分科会(Commission)が以下のとおり設置されている.

Commission AElectromagnetic Metrology(電磁波計測)

Commission BFields and Waves, Electromagnetic Theory and Applications(電磁波)

Commission CRadiocommunication Systems and Signal Processing(無線通信システム信号処理)

Commission DElectronics and Photonics(エレクトロニクス・フォトニクス)

Commission EElectromagnetic Environment and Interference(電磁波の雑音・障害)

Commission FWave Propagation and Remote Sensing(非電離媒質伝搬・リモートセンシング)

Commission GIonospheric Radio and Propagation(電離圏電波伝搬)

Commission HWaves in Plasmas(プラズマ波動)

Commission JRadio Astronomy(電波天文学)

Commission KElectromagnetics in Biology and Medicine(医用生体電磁気学)

これらの分科会は,相互の緊密な連携の下に,電波科学の発展に資するため,広範にわたる活動を精力的に行っている.なお,わが国では日本学術会議(http://www.scj.go.jp/)がURSIに加入しており,日本学術会議URSI分科会(http://www.ap.ide.titech.ac.jp/ursi/)が,わが国におけるURSIへの公式対応組織である.

URSI3年ごとに,国際会議「URSI総会」(URSI General Assembly)を世界各地で開催している.URSI総会は,URSIが主催する国際会議のなかで最大規模のものである.URSI1922年にブリュッセル(ベルギー)で第1回総会を開催し,以来,計28回の総会を開催してきている.1954年の第11回総会(開催地:デン・ハーグ(オランダ))以降は,3年ごとに総会が開催されており,その都度,電波科学全般に関する活発な論文発表,研究討論がなされてきた.これまでのURSI総会の開催地一覧を表1に示す.

表1.過去のURSI総会開催地一覧

回数

開催年

開催地

1

1922

ブリュッセル(ベルギー)

2

1927

ワシントン(米国)

3

1928

ブリュッセル(ベルギー)

4

1931

コペンハーゲン(デンマーク)

5

1934

ロンドン(英国)

6

1938

ヴェネツィア(イタリア)

7

1946

パリ(フランス)

8

1948

ストックホルム(スウェーデン)

9

1950

チューリッヒ(スイス)

10

1952

シドニー(オーストラリア)

11

1954

デン・ハーグ(オランダ)

12

1957

ボルダー(米国)

13

1960

ロンドン(英国)

14

1963

東京(日本)

15

1966

ミュンヘン(ドイツ)

16

1969

オタワ(カナダ)

17

1972

ワルシャワ(ポーランド)

18

1975

リマ(ペルー)

19

1978

ヘルシンキ(フィンランド)

20

1981

ワシントン(米国)

21

1984

フィレンツェ(イタリア)

22

1987

テルアビブ(イスラエル)

23

1990

プラハ(チェコスロバキア)

24

1993

京都(日本)

25

1996

リール(フランス)

26

1999

トロント(カナダ)

27

2002

マーストリヒト(オランダ)

28

2005

ニューデリー(インド)

29

2008

シカゴ(米国)

30

2011

イスタンブール(トルコ)

URSIの下でのわが国の電波科学研究分野の活動は,非常に活発である.表1に示すとおり,URSI総会は過去2回,日本で開催されているが(1963年:東京,1993年:京都),とくに1993年に京都で開催された「第24URSI総会」は大成功を収め,URSI本部の京都総会に対する評価は極めて高い.さらに,多くのURSI本部役員(会長,副会長,分科会の議長・副議長)が,これまで日本から選出されている.このように,わが国は世界の電波科学研究において,中心的な役割を担っている.

「アジア・太平洋電波科学会議」(Asia-Pacific Radio Science ConferenceAP-RASC)は,URSIがアジア・太平洋地域で原則として3年ごとに開催する国際会議である.AP-RASCは,電波科学にかかる諸分野の連携を深め,かつアジア・太平洋地域における電波科学研究の一層の活性化と発展を図ることを企図し,URSI日本国内委員会(当時の日本学術会議電波科学研究連絡委員会)がURSI本部に提案し,実現したものである.URSI本部による承認を経て,20018月に第1回のAP-RASCAP-RASC'01)が東京で開催され,大成功を収めた.

AP-RASCはわが国がURSI本部に提案して発足した国際会議であるため,電波科学分野に関する日本の最新かつ最先端の研究活動状況を,アジア・太平洋地域を中心として広く世界に周知する必要性から,再度日本でAP-RASCを開催すべきであるとの意見が多く出された.そこで,日本学術会議URSI分科会での検討を経て,わが国は20088月初めに,URSI本部に対し,「アジア・太平洋電波科学会議」(AP-RASC)を2010年に日本で開催することを提案した.わが国からのこの提案は,20088月中旬に米国シカゴ市で開催されたURSI理事会(URSI Council)で審議のうえ,承認された.以上の経過の後に,日本(富山市)における「2010年アジア・太平洋電波科学会議」(AP-RASC'10)の20109月開催が実現した.AP-RASC'10は,第3回のAP-RASCにあたる(http://www.ap-rasc10.jp/).

AP-RASC'10は,URSIと電子情報通信学会の共同主催,電気学会,電気・電子情報学術振興財団の協賛,及び,日本学術会議,富山県,富山市,富山大学,富山県立大学の後援によって,2010922日から26日までの5日間にわたり,富山国際会議場で開催される.とくに,開催地の地元である富山県と富山市からAP-RASC'10の富山開催に関しご支援をいただいていることは重要であり,県と市に対し深く感謝申し上げたい.なお,この国際会議の規模は,発表論文数500編,参加者数500人(国内300人,外国200人)であり,非常に国際色豊かな会議となることが期待されている.

国際会議AP-RASC'10の開催地は「富山国際会議場」である.日本学術会議URSI分科会は,AP-RASC'10開催地の選定にあたり,全国主要都市における複数の施設を慎重に比較・検討した.URSI分科会委員の多くが富山市でのAP-RASC'10開催に大きな魅力を感じ,URSI分科会での審議の結果,種々の観点から,富山国際会議場がAP-RASC'10の開催地として最良であるとの結論に到達した.

前述のように,わが国は世界の電波科学研究において,中心的な役割を果たしている.しかしながら,アジア地域では,URSIに加入する国・地域が日本,中国,台湾,インド,韓国に限られており,URSIの活動は必ずしも活発とはいえない状況にある.また,アジア地域における学術研究については,太平洋地域との緊密な連携が重要視されていることから,アジア・太平洋地域を広く視野に入れた連携・協力の場が要請されている.このことから,アジア地域における電波科学研究の活性化,ならびにアジア諸国間の相互協力を実現するためには,AP-RASCを日本で開催することにより,わが国が主導的な立場をとる必要がある.

AP-RASC'10の日本開催により,アジア地域における電波科学研究の活性化を図ることができ,これによってアジア諸国のURSIへの関心が深まると同時に,アジア諸国のURSIへの新規加入など,URSIの諸活動へのわが国の貢献が大きく期待される.また,URSI本部は,1993年に京都で開催された「第24URSI総会」を高く評価していることから,近い将来,URSI総会が再び日本で開催されることを望んでいる.これを受け,日本学術会議URSI分科会では,2014年にURSI総会をわが国で開催する可能性について,現在検討中である.AP-RASC'10が成功を収めれば,URSI本部のみならず,URSIに加入する各国のURSI国内委員会からも,近い将来におけるURSI総会の日本開催に関する要望が出されることが期待される.

URSIの傘下には,電波科学に関する全ての分野を網羅する10の分科会(前述のCommissions ABCDEFGHJK)が設置されているが,これらの分科会で活動する若手研究者の会議参加を促進し,かつ次世代の電波科学研究を担う若手研究者を発掘・育成することを目的とし,AP-RASC'10では,若手研究者に対する特別支援プログラムとして,Student Paper CompetitionSPC:学生論文コンテスト),及びYoung Scientist AwardYSA:若手研究者学術奨励賞)の二つを実施する.なお,URSI本部はSPCYSAに対し,総額15,250ユーロの補助金を支給することを決定し,AP-RASC'10の日本開催を全面的に支援している.この二つのプログラムの実施により,学生を含む若手研究者の会議参加を促し,かつ電波科学研究の将来を担う優秀な若手研究者の成長を支援することが可能となるため,電波科学研究の今後の進展が大きく期待される.

国際会議AP-RASC'10では,「環境・エネルギーと電波科学」をメインテーマに掲げている.電波科学の研究分野は近年,驚くべき進歩を遂げている.無尽蔵な太陽光エネルギーを利用するために宇宙に建設する宇宙太陽発電所,そこから電波でエネルギーを地球に送るという壮大な計画,地球環境の衛星観測,地中に埋もれた遺跡や地雷を探り出すレーダ技術,次世代の携帯電話のかたち,人工衛星群を用いたインターネット通信網の世界,人工衛星「かぐや」によって解明されつつある月の地殻構造,磁場・電場環境など,電波科学が活躍する舞台は非常に広く奥深いものがあり,これらはすべて一般社会と密接な関連がある.

また,最近,「電波環境」が多くの人々の関心を集めている.さまざまな機器が機器本来の働きや性能を発揮する際に機器外部に放射する「不要電波」への対策,電波が人体や医用機器に与える影響など,「人と生活(環境)と電波の関わり」は,電波科学に従事する研究者・技術者にとって極めて重要な分野である.これは同時に,一般社会にとっても重要な関心事である.国際会議AP-RASC'10のメインテーマには「環境」というキーワードを掲げているが,上述の「電波環境」に関する多くの論文発表も行われる予定であり,広く一般社会の関心を呼ぶことが期待される.

さて,2009103日には,富山国際会議場で「国際電波科学連合公開シンポジウム」が開催される(http://www.rdw.pu-toyama.ac.jp/pre-AP-RASC'09/).この公開シンポジウムは,国際会議「2010年アジア・太平洋電波科学会議」(AP-RASC'10)を成功させるために企画した事業(プレイベント)である.このシンポジウムでは,世界における電波科学研究の最前線で活躍する研究者が「現在及び将来において脚光を浴びる電波科学研究分野の重要な課題」を論じ,未来を担う若者(富山県内の中学校・高等学校の生徒,工業高等専門学校・大学の学生)を中心とし,電波科学関係の研究者・技術者,及び富山県内の一般参加者に対し,科学技術の世界とその魅力を紹介する.

「国際電波科学連合公開シンポジウム」は,日本学術会議URSI分科会と国際電波科学連合公開シンポジウム実行委員会の共同主催である.さらに,富山県,富山市,富山県教育委員会,富山市教育委員会,富山大学,富山県立大学,富山工業高等専門学校・富山商船高等専門学校が,このシンポジウムの後援機関として,名を連ねている.

おわりに,2009103日に富山国際会議場で開催される「国際電波科学連合公開シンポジウム」,ならびに2010922日〜26日に同じく富山国際会議場で開催される「2010年アジア・太平洋電波科学会議」(AP-RASC'10)に関し,ご支援をいただいている富山県,富山市,及び富山県内の教育機関に対し,深く感謝申し上げるとともに,両事業の成功を祈念している.